かみまちのきつねがばかすいつつのいつわ
加美町の狐が化かす五つの逸話
- どんな話か
- 加美町一帯で人を化かした狐にまつわる、鉄砲で撃たれた話や魚を奪われた話など五つの逸話をまとめて伝える。
- 細部
加美郡加美町の一帯には、人を化かす狐にまつわる話がいくつも伝わっている。文化年間(1804~1818年)のある秋の日、只野真葛の義弟にあたる沢口覚左衛門が、犬を連れて雉打ちに山へ入った。夕暮れ近くになって犬が忍び鳴きを始めたので新しい獲物かと身構えていると、林の中から一人の女が姿を現した。女が行き交うはずのない場所だと訝しみながら見ていると、笹をかき分ける足音も立てず、裾を動かすこともなく、すべるように近づいてくる。
化生のものと察しつつ声をかけてみると、蛙のような妙な声で応じるばかりであった。ふと少し離れた笹薮に狐の顔がちらりと見えたため鉄砲で撃つと、悲鳴とともに女の姿も狐の姿も消え失せてしまった。連れていた犬は術にかけられたように眠りこけていたが、起こして放してやると異様な声で吠えたてたので駆けつけてみると、犬よりも大きな年老いた牝狐が倒れていたという。このあたりに棲んで里人を化かしていた悪い狐は、これ以降は怪異を起こさなくなった。
別の話では、ある魚屋が墓地の中に台を持ち込み、並んだ石仏や石塔を客のつもりで見立てて魚を投げつけたところ、その魚はすべて狐にたいらげられてしまったという。また、ある家の亭主が夜遅く帰る道すがら、途中まで女房らしき姿が出迎えに来ていたことがあった。赤飯を炊いたと聞いた亭主は赤飯が苦手だったため腹を立てて言い争いになり、買ってきた魚の包みを投げつけてしまう。ところが家に着いてみると女房はずっと家におり、どこにも出かけていなかった。
よく確かめると、手みやげはすべて狐に持ち去られていたのだという。自分は狐などには決してだまされないと豪語し、狐が出そうな場所ではいつも用心を怠らない男もいた。あるときも油断なく気を張っていたところ、道の脇に小判らしきものが落ちているのが目にとまった。近づいてみると、ぴょんと跳ねるようにして逃げていく。追いかければまた跳ねて先へ行くので、逃すものかと飛びついてつかんでみると、それは垂れかけの糞であった。
渓流釣りを終えた男が夕方山を下ってくると、急に魚籠(びく)がずしりと重くなった。ふと見ると血まみれの生首が魚籠に食いついていたため、男は何もかも放り出して逃げ帰ってしまう。翌日仲間とともにその場所へ行ってみると、空っぽになった魚籠が転がっており、狐の毛がたくさん付いていたという。
- 広まり方
- 『宮城縣史 民俗3』(1956年)の妖怪変化・幽霊の事例篇に、五つの逸話としてまとめて記録されている。
- 地域
- 宮城県加美町
- 年代
- 不明
- 検証状況
- 伝承由来
近代以前の民間伝承が下敷きになっている。 - タグ